新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

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コラム - 201601のエントリ

 

一 京都地裁平成25411日判決の紹介
 
上記判決掲載の判例時報2192号による事件の流れ
(1) 遺言書を残された方は会社を経営する女性の方でした。
彼女は京都祇園で舞妓・芸妓さんをされていたそうですが、東京で呉服商を営んでいた男性と結婚されました。その男性が祇園で呉服商を開かれ、会社組織にされ、大阪や名古屋にも支店を出されております。ご主人の亡くなられた後も経営は順調だったようです。
判決文を追っていきますと、ご主人が亡くなられた約27年後に最初の自筆証書遺言を作成されておられます。その内容は“私の遺産はお任せしている弁護士○○に遺贈します”という平仮名まじりの内容で、その女性にはお子様がおられませんでした。ご両親やお子様がおられませんので(兄弟姉妹に遺留分はありません)、その女性の遺産は全て弁護士○○に渡ることになります。
 
(2) 遺言をされた2年後、その自筆証書遺言を秘密証書遺言にされました。もちろん遺言執行人として二人目の弁護士も登場しますが、 弁護士○○は将来の紛争を恐れて、念を入れられて秘密証書遺言にされたのでしょうね。
ところで秘密証書遺言とは、民法970条によるもので、そんなに難しく考えることはありません。当事務所でも、遺言者の入院先は当然、自宅にも公証人の先生をお連れして作成しております。
本件もそのような感じで作成されております。前項の自筆証書遺言を公証人や証人の前で、自筆証書封紙に署名押印する手続きでされたようです。
 
(3) この事例紹介では、相続財産についても詳細に触れております。
 その女性が、結婚直後に自宅不動産を自分名義で取得されているものを別にしても、預貯金だけでも3億円を越えております。本件で特に問題とされた会社の株式については、純資産方式で2億円を越える資産であったとあります。
 ところで預貯金に関し、その弁護士○○が17000万ほどの払い戻しに関与されていたようです。これも別途裁判が行われている旨の記載があります。姉の養子という方が登場し、どんどん小説のような感じで広がっていくのですね。
 
本事例の争いの骨子「認知症と遺言書作成能力」
(1) 本件遺言書に関する争いは、この女性に遺言書を書く能力、即ち遺言能力があるかどうかが最大の争点になります。この女性の姉の養子になられた方が、この女性は「認知症であって遺言能力はない」と主張され、原告として秘密証書及び自筆証書遺言の無効訴訟を提起されたのです。無効になれば原告は、女性の兄弟姉妹の養子ですから、自ら遺産相続人として登場できるのです。
もっとも「この女性の姉の養子」という身分関係自体も深刻な争いの対象になっております。上記身分関係の判旨を読んでおりますと、女性の複雑な生い立ちが直ちに分かることになります。この女性は自らを「天涯孤独の身で相続人はいない」と自称する女性ですから、当時の日本の社会状況・世相をよく表しているのです。
 
(2) ところで、この女性が自筆証書遺言を作成された当時、彼女は87歳で、その翌年にはアルツハイマー病と診断され、痴呆の状況は「?」段階とされているのです。
認知症に関する医学的所見や日常生活の状況を読んでいく限り、この女性の判断能力には疑問が生じざるを得ません。認知症で悩まれる相続人の方がいらっしゃれば、是非とも一読してください。
特に本件は株式の遺贈に論点があてられております。確かに会社経営に関して100%の株式が弁護士○○のもとに渡ってしまうのです。高度な判断能力が要求されるでしょう。姉の養子となられた女性は、祇園店の店長をされ、会社運営に尽力されていた方でした。
 
二 遺言能力に関する裁判所の判断
 裁判所の判断を抜き書きするだけで十分なほどです。
まず「遺言能力の相対性」の項目から見ましょう。判例は、近代法の原則から解きほぐしています。「私的自治といえども正常な意思活動に基づくことが前提」としております。次に纏めの部分を見ましょう。
20歳以上の者であれば誰でも有効に契約が締結できるわけではないし、15歳以上の者であれば誰でも有効に遺言ができるわけではない。・・遺言を行うのに要求される精神能力は特に「遺言能力」呼ばれる。意思表示がどの程度の精神能力がある者によってされなければならないかは、当然のことながら、画一的に決めることはできず、意思表示の種別や内容によって異ならざるをえない(意思表示の相対性)」
「しかしながら、本件遺言は文面こそ単純であるが、数億円の財産を無償で他人に移転させるというものであり、本件遺言がもたらす結果が重大であることからすれば、本件遺言のような遺言を有効に行ううためには、ある程度高度(重大な結果に見合う程度)の精神能力を要するものと解される。」
 
以上により、秘密証書遺言を無効とし、次にその2年前に作成された自筆証書遺言も同様に無効としました。
 
三 感想
お医者さんやその家族から「患者さんより、遺産全部をあなたに遺贈する遺言書を作ると言われているが」という相談は、枚挙にいとまがありません。羨ましい職業ですね(弁護士にはないです)。でも「面倒なことに巻き込まれることもありますよ」とアドバイスしております。

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一 新年にあたってのご挨拶と思い出
 
  本年も宜しくお願い致します。
 
1   新年を迎えまして、「新年の始めには遺言書を書こう」と宣伝していた10数年前のことを思い出しました。
      当時、私は、東京にある三つの弁護士会が作っていた法律相談センターを構成員とする東京法律相談連絡協議会の議長をしておりました。各々の弁護士会が、別個に組織していた法律相談センターを纏める組織としての協議会ですから(当時新しい弁護士会館ができ、三弁護士会を束ねる組織がやっと機能し始めた頃です)、この協議会の影響力は大変なものがありました。そこで種々議論をした結果、新年の始めには、「遺言書を作成すると言う習慣」を作って頂きたいという宣伝活動をすることになったのです。現在、各弁護士会には遺言センターなども組織されておりますが、当時は遺言書の作成について、組織として議論する環境はなかったのです。
 
 2   弁護士会のことなど、どうでもいいのですが、「新年の始めに、遺言書を書きましょう」と提案したことには特別な意味があると思います。これは“死後の相続争いを避けるため”という実用的な面だけではなく、人生の締めくくりや希望の意味を込めて、年の始めに自分の思いを遺言書で残すことも大切な習慣になるはずです。
      ところで遺言書の作り方はネットで氾濫しております。私のコラムではそんなつまらないことは書きたくありません。毎年作成するということに疑問をお持ちの方に説明しておきますが、民法の定めに従って作成していただく限り、最後に作成された日付けの遺言書が有効になります。従って、前の遺言書が残っていても何の問題もありません。このような私の思いのせいでしょうか、当事務所の貸金庫には遺言書が大量に保管されていたこともあります。
 
二  遺言書を巡る事件
1    遺言書に関係する事件も本当にたくさん扱ってきました。遺言書作成当時の遺言能力に疑問を感じ、医療鑑定をした経験もありますし、自ら長谷川方式で認知症テストまでしたこともあります。遺言書の筆跡鑑定程度の事件なら、たくさん扱ってきました。
今回は、一つ目として、遺言書の作成で受任した弁護士が失敗した事例を紹介しましょう。この事案なら私の依頼者と関係がありません。そして、もう一つは、一昨年「判例時報」という弁護士にとっては有名な雑誌に紹介されていた事案を紹介しましょう。この事案のような、まるで時代小説のような事件も経験しましたが、公開されている事例を紹介するのですから、遠慮なくその詳細をご紹介できます。
 
2   最初の事件ですが、弁護士が遺言書の作成で失敗したにもかかわらず、その後始末にも失敗された事案です。つまりその遺言書で自らを遺言執行人に指定されておられました。私はその弁護士(巨大事務所の有名弁護士さんです。一度事務所をお尋ねしましたが、驚くほど広かった)の遺言執行人解任の申立(民法10191項)のみ受任しました。その際、関係する相続事件等には一切関与しておりません。                                                          
        この事案は、遺言書の作成について注意するべき論点の一つです。
 
       本論ですが、有名な弁護士さんは、超資産家の顧問のような立場におられたのでしょうか?奥様の話を聞いて自筆証書の遺言書を自ら下書きされたようです。二点の曖昧な記述部分についての説明で、弁護士さんは他の相続人に対し、以上のような説明をされたそうです。
          不明点の一つは、超高級賃貸マンションの奥様の持ち分5分の3(5分の2は、元々長男所有)の遺贈に関する規定が疑問でした。この弁護士さんは「この持分五分の参のうちの五分の壱」を長男に相続させると記載されたのです。通常の常識からは「うちの五分の壱」ですから、全体で25分の3になります。しかし、この弁護士さんは奥様から直接、長男の取り分を5分の1にしてくださいと話されていたと主張されました。つまり25分の5です。長男には絶対的な持ち分ということ以外に、何十億の物件なのですから、金額としても大変な違いなのです。
          皆様、面白いでしょう。単純に5分の1になるように計算して表記すればよかったはずです。或は奥様の言う通りに書いてしまってもよかったのです。もちろん登記できない表現では、長男が遺言書に基づいて単独で登記できませんから、弁護士として失格ですが・・。
          結論として、有名な弁護士さんの言うとおりの登記申請は法務局が受理せず、遺言書に基づく登記はできませんでした。やはり失格です。
 
4   第二は、重要文化財クラス()の骨董品等の所有権の来歴を調査されないまま、奥様の申されるとおりに長男への遺贈として下書きされたようです。これは先に亡くなったご主人の遺産分割協議書等、多少調査されれば事実が違うこともすぐに分かったはずです。
        弁護士さんは、その後も遺言執行人として「奥様の話しを直接聞いた」として長男の弁護をされ続けたため、私は遺言執行人解任申立事件のみ受任しました。家庭裁判所裁判官は「みっともない」と感想をもらされ、私の知らないところで有名弁護士さんに「辞任する」ことで話をつけられ、私は依頼者の説得を頼まれ、事件は終了しました。
       上記事件の依頼者は、優秀な方で資産家ですから、その後の相続については「普通に終わりました」という報告しか受けておりません。つまり弁護士さんの介入がなければ何の問題もない事件だったのです。
予定ページになってしまいました。第二の事件紹介は次回のコラムに譲らざるを得ません。
次回は、「時代小説もどき」の紹介ですね。

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