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従業員等による情報漏洩や競業行為に対する法的手段

≪目次≫

  1. はじめに
  2. 従業員等により「営業秘密」を漏洩された場合の法的手段
    (1)はじめに
    (2)「営業秘密」を漏洩された場合の措置
    (3)「営業秘密」とは何か
  3. 従業員等により「営業秘密」以外の情報を漏洩された場合の法的手段
    (1)はじめに
    (2)在職中の場合
    (3)退職後の場合
  4. 従業員等による競業行為に対する法的手段
    (1)はじめに
    (2)在職中の場合
    (3)退職後の場合
  5. その他の信用毀損行為や引き抜き行為に対する法的手段
    (1)はじめに
    (2)信用毀損行為が行われた場合
    (3)引き抜き行為が行われた場合
  6. 事前の対応策
    (1)はじめに
    (2)営業秘密管理指針(改訂版)に基づく秘密管理方法
  7. まとめ


既にトラブルになっている場合だけでなく、
営業秘密管理や競業避止など社内規則や覚書などの作成もお任せください。 

≪本文≫

第1章 はじめに

雇用の流動化が進むにつれ、伝統的な会社が前提としてきた終身雇用制も崩れつつあります。従業員が他の会社に転職するということは、当該従業員が有している情報も一緒に他の会社に漏洩してしまう可能性があるということです。

会社にとって有益な情報がライバル企業に漏洩してしまった場合、企業価値は著しく損なわれることになります。

しかし、日本の法律は終身雇用制を前提として作られている面もあり、従業員等による情報漏洩に対して厳格に規制されているわけではありません。

そのため、“従業員等によってライバル企業に情報が漏洩した”ということのないよう日頃から規程や運用を整備しておく必要があります。

本稿では、

  1. 従業員等により「営業秘密」を漏洩された場合の法的手段(第2章)
  2. 従業員等により「営業秘密」以外の情報を漏洩された場合の法的手段(第3章)(3)従業員等による競業行為に対する法的手段(第4章)
  3. その他の信用毀損行為や引き抜き行為に対する法的手段(第5章)
  4. 事前の対応策(第6章)

に区分してご説明致します。

第2章 従業員等により「営業秘密」を漏洩された場合の法的手段

1 はじめに

以前、当事務所が勝訴した裁判例などを挙げてコラムを書きましたので、そちらも参考にして頂ければ幸いですが、従業員等によって「営業秘密」を漏洩された場合には不正競争防止法による規定が適用されます。

(コラム「退職した元従業員に営業秘密(企業秘密)を持ち出されたら?」、コラム「営業秘密に関する訴訟に勝つためにはどうすれば良いか?」参照)

2 「営業秘密」を漏洩された場合の措置

従業員や取締役等によって「営業秘密」を漏洩された場合には、不正競争防止法上、会社は次のような措置を取ることができます(解雇など不正競争防止法以外の法律を根拠とする措置については次章以降を参考にして下さい)。

(1)差止請求(不正競争防止法3条1項)

侵害の停止または予防を請求することができます。

もっとも、消滅時効がありますので注意が必要です(不正競争防止法15条)。

(2)廃棄除去請求(不正競争防止法3条2項)

侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除去、侵害の停止または予防に必要な行為を請求することができます。

「侵害行為を組成した物」とは、営業秘密を化体した媒体等をいいます。

「侵害行為に供した設備」とは、営業秘密を使用するための装置等をいいます。

(3)損害賠償請求(不正競争防止法4条)

損害賠償請求することができます。

「営業秘密」の漏洩により損害賠償請求を行う場合は、「営業秘密に関する使用許諾料」を請求することができるなど、民法に基づく請求の場合よりも損害額の立証が容易になっています(不正競争防止法5条)。

(4)信用回復の措置(不正競争防止法14条)

「営業秘密」の漏洩によって粗悪品が出回るなど営業上の信用が害されたような場合には信用を回復するための措置(新聞等における謝罪広告など)を求めることができます。

(5)刑事告訴(不正競争防止法21条1項)

「営業秘密侵害行為」がなされた場合は刑事罰の対象になる可能性があります。

罰則の内容は「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と非常に強力です。

役員、従業員のみならず退職者に対しても対象になる場合がありますので、退職後に競業会社に就職したとか競業会社を設立したというような場合も含めて、刑事告訴が有効になる場面は大いにあります。

刑事告訴の対象になるかどうかについては、不正競争防止法の要件が細かく定まっておりますので、証拠と照らし合わせて十分に検討する必要がありますが、当事務所では刑事告訴によって効果的に事件を解決した経験がありますのでご安心ください。

3 「営業秘密」とは何か。

「営業秘密」を漏洩された場合には前項のような措置を取ることができるとはいえ、そもそも漏洩された情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するかという点が最大の問題になります。

「営業秘密」として保護されるためには(1)秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)有用な情報であること(有用性)、(3)公然と知られていないこと(非公然性)の3要件を満たしていなければなりません。裁判においては、特に「秘密管理性」について争点となることが多いです。

「秘密管理性」の判断に関する裁判例の傾向について、経済産業省が作成している「営業秘密管理指針(改訂版)」によれば、(1)情報の秘密保持のために必要な管理をしていること(アクセス制限の存在)及び(2)アクセスした者にそれが秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性の存在)が重視されていると指摘されています。

経済産業省は「営業秘密管理チェックシート」を公開しておりますので、是非問題になっている情報が「営業秘密」といえるのかチェックして下さい。

如何に日頃から法的対策を練っておくことが重要かということをご理解頂けるのではないかと思います。

第3章 従業員等により「営業秘密」以外の情報を漏洩された場合の法的手段

1 はじめに

前章にて述べた通り、「営業秘密」が漏洩された場合には不正競争防止法に従って各措置を行うことができますが、場合によっては「営業秘密」の要件を満たさないということも考えられます。

そのような場合は、どのような措置を取れるのでしょうか。

次項以降において、(1)在職中の場合、(2)退職後の場合に分けてご説明致します。

2 在職中の場合

在職中、労働者は労働契約に付随する信義則上の義務として当然に一定範囲の秘密保持義務を負うと考えられております(なお、取締役も会社法の忠実義務や善管注意義務に基づき当然に一定範囲の秘密保持義務を負うと考えられております)。

そのため、損害賠償を請求することができますが、通常の裁判においては競業避止義務等と併せて誠実義務違反の主張に包含されるのが一般的であり、具体的な態様や損害の程度などによって認められる金額は異なります。

また、就業規則に基づき懲戒処分、特に懲戒解雇を行うこともできます。

“ブラック企業”などと根拠のない批判をされないためにも、漏洩された情報の重要性、従業員の地位・立場、漏洩の態様、程度、目的、被害の重大性、被害の回復可能性など様々な観点を考慮して、弁護士と協議した上で処分内容を決するのが重要です。

なお、内部告発を目的とする情報漏洩の場合には公益通報者保護法による規制がありますので、注意が必要です。

3 退職後の場合

退職後の従業員等は、在職中に知り得た情報について、信義則上の義務として一定範囲の秘密保持義務を負うと考えられています。

そのため、損害賠償や退職金返還等を請求することができます。

もっとも、訴訟においては、従業員等の職業選択の自由や営業の自由を不当に制限してしまう可能性を考慮して、退職後の秘密保持義務について特約がある場合でも、情報の重要性・性質・範囲、対象者の退職前の地位・立場等を考慮して請求の可否が判断されます。

第4章 従業員等による競業行為に対する法的手段

1 はじめに

従業員等による情報漏洩が発生した場合、ライバル企業に情報を持ち込むなど競業行為が関連していることが少なくありません。

そこで、本章においては、(1)在職中の場合、(2)退職後の場合に分けて競業避止義務についてご説明致します。

2 在職中の場合

労働者の競業避止義務について明文はありませんが、労働契約に付随する信義則上の義務として当然に認められています。また、取締役の競業避止義務についても会社法(356条1項、365条1項)に規定されています。

そのため、就業規則に競業避止義務が定められていない場合も含めて、会社は損害賠償を請求することができます。

また、前述した秘密保持義務と同様に懲戒解雇などの懲戒処分を取ることもできますし、長年の功労を抹殺してしまうほどの重大な競業行為といえるのであれば退職金不支給措置を取ることもできます。

さらに、裁判所においてはかなり厳格に判断されるものの、競業行為の差止請求をすることもできます。

3 退職後の場合

職業選択の自由との関係上、特約が無い限り取締役や労働者の退職後の競業避止義務は認められないのが原則です。

もっとも、特約が無い場合であっても、競業行為の態様が悪質といいうる場合には損害賠償請求が認められます。実際、裁判例(東京地裁平成5年1月28日判決)においても、「原則的には、営業の自由の観点からしても労働(雇傭)契約終了後はこれらの義務を負担するものではないというべきではあるが、すくなくとも、労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して、使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されないものと解するのが相当であり、そのような働きかけをした場合には、労働契約上の債務不履行となるものとみるべきである」と判示しているものがあります。

そうだとしても、特約があった場合の方が損害賠償請求や退職金返還請求が認められやすいのは言うまでもありません。

そこで、問題になるのは、“特約があった場合、当該特約はどのような場合に有効と判断されるのか”という問題です。

この論点については、以前コラムでも書きましたのでご覧いただければ幸いですが、退職前の地位、競業行為の態様、禁止される職種・業種・期間・地域の範囲、代償措置の有無などを基準にして判断されることになります(コラム「退職後の競業避止義務特約は有効か?」を参考にして下さい)。

また、“就業規則で退職後の競業避止義務を規定しただけの場合にも特約と全く同等の効力を生じるのか”という論点もありますが、前述したように、特約が無い場合であっても損害賠償が認められる場合もあるのですから、競業行為の態様によっては損害賠償が認められると考えられます。

第5章 その他の信用毀損行為や引き抜き行為に対する法的手段

1 はじめに

従業員等によって情報漏洩がなされ、競業行為が行われるような場合、それと同時に信用毀損行為や引き抜き行為がなされることも少なくありません。

そこで、次項以降において、(1)信用毀損行為が行われた場合、(2)引き抜き行為が行われた場合に分けてご説明致します。

2 信用毀損行為が行われた場合

競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布して信用を毀損するいわゆる営業誹謗行為が行われた場合、不正競争防止法(2条1項14号)に基づき、第2章において前述した各民事上の措置を行うことができます。

また、不正競争防止法に該当せずとも、民法上の不法行為に基づき損害賠償請求することもできます(709条)。

さらに、刑法上の名誉毀損罪(230条)、侮辱罪(231条)、信用毀損罪・業務妨害罪(233条)に該当する場合には刑事告訴することもできます。

3 引き抜き行為が行われた場合

前述した通り、労働者にせよ取締役にせよ在職中は会社に対する忠実義務等を負うものの、退職後の行為が直ちに違法になるわけではありません。

しかし、元の会社の従業員を引き抜いて営業をできなくして顧客を奪うような悪質な行為は違法行為と判断され、損害賠償請求が認められます。

そして、損害賠償請求が認められるかどうかについては、在職中から準備していたのか或いは退職後から準備したに過ぎないのか、退職後に引き抜きをしないという特約があるのかなど具体的事情によって判断が異なると考えられます。

第6章 事前の対応策

1 はじめに

これまでは従業員等による情報漏洩や競業行為がなされた後にどのような法的手段を講じることができるかという視点から説明をしてまいりましたが、事前に特約を締結しておくことの必要性や「営業秘密」として管理することの重要性を理解して頂いたことと思います。 

そこで、最後に、どのようにして日頃から規程や運用を整備しておけばいざというときに役立つのかについて経済産業省のガイドラインである「営業秘密管理指針(改訂版)」に従ってご説明致します。

2 営業秘密管理指針(改訂版)に基づく秘密管理方法

(1)秘密である旨の指定、アクセス権者の指定

経済産業省のガイドラインによれば、営業秘密とその他の情報とを区分して管理することや情報にアクセスする権限を有する者を予め指定することが重視されています。

(2)物理的・技術的管理方法

物理的管理方法としては、(1)営業秘密が記録されている媒体であることを客観的に認識可能な状態にすること(具体的には書面にマル秘マークを押したり、メールにパスワードを設定したりすること)、(2)保管庫に施錠して持ち出しをできる限り制限すること、(3)適切に回収して復元不可能な措置を講じて廃棄すること、(4)保管施設の入退出を制限すること等が重視されています。

また、技術的管理方法としては、(1)ネットワークに接続する際のルールを確立することやデータを暗号化すること、(2)パスワードを設定すること、(3)外部ネットワークからの侵入に対して防御すること、(4)復元不可能な措置を講じてデータを消去・廃棄することなどが重視されています。

(3)人的管理方法

人的管理方法としては、(1)従業者等に対する教育・研修を実施すること、(2)就業規則・特約等によって従業者や退職者などに対して秘密保持を要請することなどが重視されています。

さらに、派遣労働者、転入者、取引先に対しても同様の秘密保持義務を負わせることが重視されています。

(4)営業秘密侵害に備えた証拠確保に関する管理方法

厳重な管理を実施したとしても営業秘密が漏洩する恐れを完全になくすことができないため、営業秘密が漏洩した場合に備え、証拠確保のための措置を講じることが重視されています。

第7章 まとめ

以上の通り、従業員等による情報漏洩や競業行為に対する法的手段を説明してまいりました。

既に情報が漏洩してしまった場合には、どのような法的手段を取るべきかについて是非一度当事務所にご相談下されば幸いです。

まだ情報が漏洩していないものの情報管理を法務面からもチェックしたいという場合にも、是非一度当事務所にご相談下されば幸いです。

当事務所は、経済産業省のガイドラインに沿った形で、なおかつ万が一裁判になった場合にも対応できるような形で、貴社のコーポレートガバナンスにご協力致します。

以  上

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