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書評「なぜ、無実の医師が逮捕されたのか」出版社方丈社

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書評
1 この本は、畏友である弁護士安童二先生の著作であり、昨年9月29日、出版されました。昨年末、新宿紀伊国屋書店にこの本を求めて案内担当に尋ねたところ、「よく売れていますよ」と不思議そうな感じで説明を受けました。確かに表紙は、字だけのみの簡素なものであり、題も一般受けしにくく、宣伝意識が不十分のようにも思います。
  安得萓犬箸里付き合いは既に20年近くになるのではないでしょうか。近時、激しく揺れ動いております築地の仲卸業者の債務整理、つまり営業権譲渡の特殊案件において、東京地方裁判所のご依頼を受けて面識を得ました。互いに破産法上の保全管理人として、築地市場で新たなシステムを作る中でのお付き合いが始まりです。
  安得萓犬蓮行動力に優れておられますが、その法的バランスも申し分なく、この先生はできる弁護士だと確信した数少ない方です。
  本書も優れたドキュメントでありますが、私は「刑法の教科書」として或は「お医者様の必読文書」として推薦したいと思いました。でも、とてつもなく面白いドキュメントでありますから、皆様には、教科書的読み物でなく、ノンフィクション小説のように読んでいただければ幸いであると考えております。

2 早く本論に入りましょう。
  第一に、この本により、医療分野の本当の難しさに、新たに目を開かせていただいたことであります。
  安得萓犬蓮∋実の追求が半端ではありません。私も、若い先生方に事実をどこまでも調べてくださいと要求しておりますが、こんなことは、安得萓犬砲肋鐚韻任后あるいはまた、私が、「その道の専門家に聞くことが一番」という事実調査の実践は、常識以前のものでしかありません。この究極の人脈造りは、安得萓犬凌由覆里覆擦觀覯未任垢ら、真似ができません。ドキュメントですから、その説得力が違います。
  以上の調査結果として、産婦人科医の仕事の大変さを肌で知りました。胎盤と血液などの関係を勉強しておりますと、子供が生まれる仕組みを知りました。母の大変さに思い至り、自らの無知の猛省です。母や妻に感謝せねばなりません。
  また医療の世界の一部ではありましょうが、麻酔科医の先生の役割も、初めて勉強したことになります。神奈川がんセンター事件は、まさしく麻酔科医の先生が起訴され、無罪となった事件ですが(横浜地方裁判所平成25年9月17日判決・確定)、その紹介の場面も本書の急所です。
  これらの事件が発生する問題の一つとして「事故調査委員会の報告書」をあげておられます。これは、後に述べることにします。
 
3 第二の衝撃は、法と医療の目指す「正義」が全く違うという指摘です。起訴されれば、有罪か無罪。検事の立証が、法に抵触したと認定するに足りる事実を摘示して立証するなら有罪となります。安得萓犬蓮△海譴鰺罪か無罪かの二択と説明します。しかるに医療は三択なのですね。安得萓犬遼椶魄用します。
  「医療事故はいくら誠実に調査しても、結果は、三択の答え、要するに、『何が原因で起こったのか判らない』との結論が出る可能性がいくらでもある」(261頁)。ここで医療と刑事罰との正義の思考形態が異なることの説明も面白いのです。だから納得しがたい起訴もありうるのですね。もっと引用をしたいのですが、書きたいことがありすぎて‥。勘弁してください。

4 この本を、ノンフィクション小説の一分野として世に広めたいという希望を述べました。これは、この本が、刑事裁判の経過を詳細に展開していながらも、そのエピソードが実におもしろいのです。
  例えば、勾留理由開示の裁判が終わり、退廷する加藤医師が手錠腰縄なのに、自然に振り返ったという場面も傑作です。引用します。「これはなんだ、と見上げると看守と目が合った。なぜか腰縄がゆるめられたと。」その理由まで読み進むと、思わず、涙ハラリです。
  もう一つ。「私は怒りを最高裁への上告理由書にぶつけた。『東京高裁は東京地検公判部東京高裁出張所と言われている』と書き出した。」
  いやー、痛快ですね。
  こんな面白い話が続出では、刑事裁判の教科書だけで終わりにするのはもったいない。このような部分は、安得萓犬痢版の溢れる人柄”がそのまま生かされているのですが、私は、つい、ノンフィクション小説などと発言してしまうのです。
  もちろん刑事事件に通暁しようという若い弁護士の先生方には、是非とも読んでいただきたい。ミランダルールとか書きたいことは一杯ありますが‥。刑事弁護の手抜きは、できなくなりますよ。

5 最後に、安得萓犬問題提起しておられる事故調査報告書です。
  私も、会社依頼の第三者委員会報告書等に関して、本コラムに、その問題点などを提起してまいりました。その解決策も提案してきたつもりです。その一案として、保険制度を利用し、依頼者という夾雑部が入らないようにしないと公正性が保ちえないなどと警告してきたつもりです。お金を出す人と関係しない仕組み造りが、必要なのです。
  安得萓犬蓮⊂綉点について問題提起をされておりますが、医療の世界では“患者とその家族という利害関係人”まで入ることに驚きました。引用します。「なんとか遺族に補償がでるように、(医師に)過失ありきとも読めるように、書かねばならない状況に追い込まれた」事故調査委員会の報告書に警告を鳴らしておられるのです。しかも、この報告書によって警察等の捜査機関が動くのです。悲しい因果関係です。
  ページが尽きました。最後に、再度「この本はすごい」。

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