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不動産の放棄と相続放棄(その3)

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不動産の放棄

 

一 不動産バブル時代
不動産は持っていて損はないと言っていた時代のことを覚えておられますか。昭和48年の石油ショック当時、私は不動産会社に勤務していました。当時、不動産、特に土地は無くなることがないのだから、持っていても損はないという信念がありました。今、私にはそれがなくなり始めています
そもそも国家は、この不動産神話によって成立し、それを法律構成し、税制を作っております。国の税収を支える固定資産税のことなど些細なことです。そもそも領土こそが国家の前提事項です。それが世界の共通認識でした。
すなわち我が国に限定して見てみましても国取り合戦によって歴史が作られてきました。土地に対する信仰は尖閣列島を巡る問題をお話ししなくても、国の制度の骨幹であり、それを基本にして法律もできております。我妻栄という偉い民法学者の先生の教科書を今回見直しました。不動産の放棄についてはきちんと触れてありません。解釈論はおろか、その来歴すらも記述されていないのです。
では放棄と言えば相続放棄と言われる法律制度と比較してみましょう。相続財産の放棄の制度を検討しますと所有者責任がリアルに実感できるのですから不思議です。即ち、不動産の放棄ができない結論の妙が相続放棄でも同じように浮かび上がってくるという手品のような話が続きます。
 
二 単なる放棄と相続放棄は違う
  相続放棄の原因
相続放棄は、亡くなった方が有していた遺産を相続することによって発生する問題であり、民法第938条によって「家庭裁判所に申述」することと方式まで定められています。民法では、相続人の順位や相続割合をきちんと定められていますが、相続放棄は一人に遺産を集中する場合などの遺産分割協議のような事例を除いて、通常は負債が多くて相続したら困る場合に生じる問題です。
民法第939条では「相続の放棄の効力」として規定されておりますが、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」ものであって、不動産だけの放棄ではありません。相続人全員で協議して相続財産を区分して不動産だけ別にすることはできますが、単なる不動産の放棄とは全く違う概念なのです。ヤフーやグーグルを見ていると、双方を同じ閲覧場所にアトランダムに掲載していますが、全然法律が分かっていない証拠です。
 
2 驚いたことには、相続財産の放棄には、国庫に帰属させる手続規定として相続財産管理人の制度がおいてあるのです。単純に不動産を放棄する場合には、その登記手続が用意されていないのですが、それとは違う取扱いなのです。
そもそも相続財産管理人の制度は「相続人不存在」の項として第六章において規定されております。相続財産管理人は「相続人のあることが明らかでないとき」に選任されます。管理等により処分されなかった相続財産は、民法第959条によって「国庫に帰属する」と定められているのです。とうとう国庫帰属規定が出てきました。
この場合の登記手続ですが、注釈民法という全部で30巻前後の解説書をみないと出てきません。その記述も簡単です。
「(相続財産)管理人の引継書に基づいて、国庫帰属による所有権移転登記(登録)手続を国が申請することになる」と記載されています。私も引継書の段階までしか実務をしておりません。詳細は家庭裁判所の書記官実務書でも読まねば分かりません。
 
 不動産放棄はできないのですから、逆に解釈すると、相続財産管理人を選任しないと不動産を国庫に帰属できないと言っていることと同じなのです。
しかしながら、この条文から推測しましても、民法制定時、不動産放棄に関し考慮されなかったなどと言うことは考えがたいのですが・・。
 
4 ここからが急所です。
次の民法の規定を見てください。土地の放棄が可能な方法である相続放棄をしても、次の管理人が管理を始めることができるまで「自己の財産におけると同一の注意」を払わないといけないと規定されているのです(民法940条)。つまり相続放棄をしても、他に相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任して、不動産を国の所有権に帰属させておかないと所有者責任と同じ責任を負わされ続けるという結論になるのです。
民事事件となって損害賠償責任があることは紹介済みですが、刑事責任にまで及ぶことを思い出して下さい。
 
5 変な話なのですが、実態は違うのです。
相続放棄をしてもこの制度を利用する人は少ないという事実です。この事実は空き家管理条例でも紹介しますが、相続財産管理人の制度を知っていても、お金がないと相続財産管理人になる方に費用等を支払えません。相続財産管理人制度を利用しますと、地方の裁判所でも最低数十万円は費用として予納する必要があると言われております。これでは固定資産税を支払うほうが安い場合が多い。そもそも放棄した人は借金の支払いができず、或いは支払いたくないから放棄するのですよね。わざわざ費用のかかる相続財産管理人の選任申立などしません。
私自身の経験を申し上げましても、相続財産管理人の選任を受けたのは抵当権を執行したい立場の債権者である金融機関の依頼を受けて受任したものばかりです。
そもそも相続放棄は相続人の財産は一切もらいませんと言って家庭裁判所に届け出れば受理されます。従って、相続放棄をした人でもこのような制度は知らないと返答する人が多いはずです。
矛盾があるのですね。
 
三  まとめ
以上、相続財産の国庫帰属規定より分かりますことは、民法制定者は不動産の所有者責任について十分意識していたということです。
 今後は、劣悪不動産を持っていても固定資産税その他の管理費用がかかるだけで何の利益もないのにかかわらず、最悪の場合には、所有者・管理者責任まで課されることが分かりました。故に、相続財産に劣悪不動産がある場合、多少の遺産しかないのであれば、遺産全部を放棄してしまう事例も増えるのではないかと予想できます。
 
 
 次回は条例との関係で考えてみましょう。

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