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自救行為或いは自力救済(その6 価値観の是非で決する)

一 我が国の法律は自力救済を否定するのか
1 自力救済は法律も是認している

(1) 刑法講座と言う大変有名な本の第二巻を読んでみましても、民法での占有訴権については触れられているものの(民法第2022項)、反対に解釈される竹木の根の自力切除権(民法第2332項)については触れられておりません。民法第2332項を素直に読めば自力救済を認めた規定と読まざるを得ないはずです。学者の先生の価値観で考え方が変わります。価値観が問われるため書きにくい論点なのでしょうね。

 STAP細胞の小保方先生、理科学研究所の偉い先生方、最後にはノーベル受賞者を巻き込む近時の大騒動には事実主義を標榜する我が事務所では呆れてしまうだけですが、自力救済或いは自救行為の論点においても学者の先生には迷走があります。私は楽しんで読んでいるだけですが、学者の先生をめった切りにする研究論文も面白いでしょうね。前回のコラムで書いた私の憲法期末試験のように、学界からは無視されるだけでしょうが。

(2) 自力救済を書かれる研究者、つまり学者の先生には言っておきたいことがあります。

自力救済を認めない理由として、裁判所が国民から司法権を任され、その裁判所が是か非かを問う場合の唯一の判断機関であるということを前提にされておりますね。そして当然これらを法治主義で説明されますね。であるなら破産事件で苦しんできた私にとって言いたいことがあります。税務署の滞納処分は自力救済そのものではないですか?結論を言いますと「法律に定めがあるから、裁判所の判断を得ないで自力執行が認められる。これを自力救済規定と言う」と解説して下さい。自力救済の解説で、何故これも書かれないのでしょうか?
学者の先生の解説では見つからず、面倒なのでネットで調べてみましたら、フリー百科事典ウィキペディア、自力救済の項目ですぐに見つかりました。「国税滞納処分は自力執行権である」と記載されております。つまり自力救済の思考は根本において認めざるを得ない概念であり、我が国の法律でも随所に採用されております。
自力救済は、依然として根強く我々の価値観を形成しているのです。

(3) 安倍総理大臣が集団的自衛権を唱えるのも、自力救済の必要性を強く認識しているからでありましょう。私の大学時代の「やんちゃ」な姿を見る思いです。しかしながら、何とか自力救済を先に延ばそうとか、最後の最後まで発動させないようにしようなどという工夫がありません。

安倍総理は「やはり危ない、無邪気すぎる」と感じられるようになったのは、少しは私も大人になったのでしょうか。
 
 安倍総理と同様、自力救済の思想で育ち、後に分かったこと

(1)  私の思い

弁護士のコラムなのですから、判例を最初に書いてほしいと言う気持ちは分かります。しかし私は、私の学生時代、自力救済を合言葉のように唱えていた時代を書きたかったのです。学生時代は、安倍総理とは逆の意味で、国民側からの目線のつもりで、反権力が合言葉でした。国民の自由を守るためには、権力と対峙する必要があり、自ら体を張って異議の申立をしないと真の国民主権は成り立たないと考えていたのです。しかし年寄りになって、逆に危険であることに変わりはないと気付きました。まず自力救済を発動させない工夫をしなければならないのです。共産主義的思考に絶望したことも「大人?」になれた原因でしょうかね。
いずれにしても、当時のやり方では碌な世の中にならないと言う意味で・・。ある人から、分かるのが遅すぎると言われましたが・・

(2) そもそも民主主義は、暴力で解決することを排除した思想です。暴力は、最後は人命を失ったりすることで、割りが合わないという合理的思考から生まれました。政治思想もこれを根源としています。そして他者の自由を侵害するような事項については、多数決により決めることにした人類の知恵が、現実主義に即して思想となったのです。本コラムを読んでくれている若い方々、興ざめしませんか。

しかし私の学生時代は、自力救済を唱える時代だったのです。自己責任を自覚するなら、それはそれで自分の肌合いにぴったりでありました。しかし自力救済は相互に恨みを残し、また恨みは続き、未解決となり、経済的にも、否、精神的にも合理的ではありません。
 
二 判例紹介とその射程範囲
 
 1 判例は、当初、自力救済と言うだけで既に否定的でした。
自力救済の可能性を認めた判例は昭和301111日の最高裁判例が有名です。事件の内容は、他人所有の玄関間口8尺程度を切り取った自救行為です。最高裁は当該行為について適法とは認めませんでした。しかし具体的な事情によっては自救行為として認められる場合もあるとその可能性を述べたのです。
自力救済を認めた横浜地裁判例も紹介します(昭和6324日)。
マンションの前で、3か月間も車が停められていたので、住人が再三に渡り車名義人にどけるよう督促を繰り返しました。しかし名義人は応じませんでした。故意による放置と判断した住人はやむなく車を処分してしまったと言う事案です。裁判所は、本件については「やむを得ない特別の事情がある」として車名義人からの損害賠償請求を認めませんでした。
以上からも分かりますが、当初の賃貸借のコラムで紹介しましたとおり、「やむを得ない特別の事情」を認める判例は少ないのです。
 
2 自力救済のコラムを終えるにあたって
 
  若い弁護士の先生。自力救済を論じられる姿勢は本当に素晴らしい。しかし自力救済は相手方に禍根を残すこともあります。さらには懲戒になってはたまりません。「やむを得ない特別の事情」の発動ですから、十分に事件内容を吟味してください。そしてやる時には勇猛果敢に!
今回は私がずっと考えてきたテーマを纏めてみました。書き上げてから、本コラムの内容を副所長に話しました。
副所長から、自力救済は抵抗権かと質問されました。私は、自力救済は人類の持つ自然権であり、抵抗権にも通じると話しました。副所長から、お客さんが増えそうもない哲学は、本コラムに意味がない旨のお話もいただきました。
でも「こんなことを書いていないと楽しくない」と返しました。
 

    

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